飛行機に搭乗して1万メートルに達する間に、あるいは、1万メートル上空から地上に達する間に、強い耳の痛みを感じる人がいます。機内の気圧は、地上ではその時の地上圧(約1010ヘクトパスカル)で、1万メートル上空では約800ヘクトパスカルに調節されます。

この際に発症する耳痛に対しては、五苓散が有効です。

これは、おそらく、気圧低下に伴い耳管にわずかな浮腫が生じて閉塞し、鼓膜の内と外の気圧が不均衡(上昇時には鼓膜の外の気圧が低下)となり、鼓膜が気圧の低いほうに引っ張られることによって生じる現象であると思われます。五苓散はこの症候に特異的に有効です。

耳痛予防には、搭乗のどのくらい前に五苓散を服用するのが良いかについての統一見解はありませんが、これまでの経験では1?2時間前が最適と思われます。通常量の2回分を服用した方が、効果は確実です。

 

ケースレポート1:飛行機上昇時の耳痛

42歳、女性。これまで、飛行機に搭乗すると、上空に達するまでに耳が痛くなるという経験が何度もあり、それを防いでほしいということであったので、五苓散を投与し、搭乗30分?1時間前、および着陸30分?1時間前の服用を指示した。報告によると、以後の複数回のフライトで耳痛を感じなくなったとのことであった。その後、A空港からB空港に来る飛行機に搭乗して上昇中に耳痛が起きたので五苓散を飲み忘れたことに気づき、あわてて服用した。しかし耳痛は軽快しないまま目的の空港に着陸した。その3週後に前回とは逆の経路で飛んだときには、1時間前に五苓散を服用し、耳痛はなかった。

(文献1)安井廣迪:航空機上昇時の耳痛が五苓散で軽快する患者, 五苓散シンポジウム記録集p86 2013

五苓散を前もって服用しておくと、飛行機に搭乗して上昇時に出現する耳痛が予防できる患者さんが、服用を忘れたために耳痛が発症してしまったという例です。この方のように、発症してから服用しても効果がないことがありますので、やはり搭乗1?2時間前に服用するのが良いようです。

 

ケースレポート2:飛行機降下時の耳痛

44歳、女性。治療前の状態は、航空機搭乗中に降下が始まるとすぐに耳痛が出現し、航空機を降りたあとも約1日耳痛が持続し、そのあと2日間は鈍痛が残っていた。航空性中耳炎の可能性がある。この耳痛に対して五苓散を投与することとし、服用するタイミングをいろいろと試した結果、航空機が降下を始めた時点で服用するのが最も有効であることが判明した。降下開始時にツムラ五苓散2.5gを服用すると、航空機降下時に若干の鈍痛を感じる程度の耳痛で済み、航空機を降りたあとは痛みを忘れていた。

(文献2)井齋偉矢:航空機降下時の耳痛に対して五苓散が奏効した一例 五苓散シンポジウム記録集 p75 2010

これは、航空機降下時の耳痛に五苓散の頓服が奏効した例です。1万メートル上空の800ヘクトパスカルの気圧の中で耳管に浮腫が生じ、下降時に鼓膜の内外で気圧差が出た結果と思われます。このような方は、上昇時も下行時も五苓散を前もって服用することが勧められます。

 

おわりに

ある程度長距離を飛行する航空機は、高度1万メートルの上空を飛行します。飛行を開始して上空に達する前、および降下を開始して目的地に近づいたときに、鼓膜の内外に発生した気圧の差によって耳が痛くなるという現象は、五苓散の服用によって、その大半が予防できます。

「航空性中耳炎」というこの病態は、通常は、鼻をつまんで唾を飲み込むトインビー法という方法が有効です。しかし、風邪や慢性の鼻炎やアレルギー性鼻炎にかかっている方は、これだけではなかなか困難です。このような方は、まず耳鼻科的な治療をお受けになる必要があります。しかし、鼻や耳や咽の病気がなくてもこのような症状を来たす方にとっては、五苓散は魔法のように効きます。お医者さんでも、お近くの薬局にでも御相談ください。

なお、飛行機が下降しているときに子供さんが突然泣くことがあります。その原因の多くは、上述のような理由で耳が痛くなるためなのです。なかなか泣き止まない場合は、水やジュースなどの飲み物をあげるとよいのですが、むしろ、搭乗前の五苓散の服用をお勧めします。

 

(文献1)安井廣迪:航空機上昇時の耳痛が五苓散で軽快する患者, 五苓散シンポジウム記録集p86 2013

(文献2)井齋偉矢:航空機降下時の耳痛に対して五苓散が奏効した一例 五苓散シンポジウム記録集 p87 2013

 

4. 航空機搭乗に伴う耳痛(航空性中耳炎)